ワールドオリエンテーションという総合学習の形態を用い、理科・社会科の区別はない。年間およそ8~9のテーマを決め、学校全体で同じテーマに取り組む。テーマは、7つの『経験領域』と『時間』『空間』について、循環的に取り上げられる。7つの経験領域は次の通りである。
① 作ることと使うこと(労働、消費、持続可能性など) ② 環境と地形(人の棲息、植物・動物の棲息、住まいとしての地球宇宙環境など) ③ 巡る1年(1年の中の月日、お祝いや催し、学校の1年など) ④ 技術(建設、機械と道具、大きなシステム、原料とエネルギー、技術をどう使う、など) ⑤ コミュニケーション(他の人と、自然と、自然の中で、他の国の人と、など) ⑥ 共に生きる(社会に帰属する、共に生きるために、共にひとつの世界を、など) ⑦ 私の人生(私、人々、大人たちなど) |
イエナ・プラン校では、子どもが『静かに』黙考する機会を十分にもつことを強調している。そのために、教室では、ブロックアワーといわれる自立学習の時間など、他の子どもの邪魔をせずに、静かに学ぶ環境を子どもと共に尊重する姿勢が貫かれる。それはまた、共同学習の場や、サークル対話の時間を織り込むことで、子どもが自発的に率直に発言し合うことのできる場の確保と表裏の関係にある。静かな学びの場の尊重は、子どもたちが、何か分からないことについて、すぐに答えを出そうとしたり、グループリーダーや他の子どもに聞いて解決したりするのではなく、答えのない問いと付き合う訓練でもある。幾つもの答えのない問いを心に抱いて、あきらめずに答え探しを続ける態度が、探究心を養うと考えられる。
教師が一方的に『教え』、子どもが一方的に受け身に『習う』という教育・学習形態を否定するイエナ・プランでは、教員や学校経営者の役割は、知識伝達ではなく、子どもが、自発的に学びたいという意欲をもつようになるための、専門的に考え抜かれた環境づくり、ということが強調される。それは、教室をリビングルームのように安心し、快適な場として整えることにも現れている。また、教室の中には、子どもの性格やテンポに合わせて、適合的にグループリーダーが選択できる多様な教材が常備されている。教員は、何でも知っている、常に教え、導く存在ではなく、子どもたちの中に共に加わった一人の個性をもった人=グループリーダーとして捉えられる。グループリーダーは、子どもたちよりも経験が深いし、教員としての訓練を受けた専門家であると同時に、子どもたちと同じように、現在なお、人間として学び続ける存在ということだ。
このイエナ・プランの環境づくりについては、私も同じ考えである。特に学習者の主体的な学習を誘発する大きな要素であると感じてきた。それについては私のWebページ『ガショウサンの美術教育「教えないように、教える」美術教育の実践』(https://gasho.jp)に掲載しているのでご覧いただきたい。人的環境の整備に関しては、最近本学では社会人学生が増えており、人生の豊富な経験と知識や学ぶ意欲が他の学生たちによい刺激を与えてくれている。日本の場合も小中、或いは中高の連携や一貫校の設置が少しずつ進んでいるが、まだまだ同年齢間での学習形態が中心である。芸術教科科目においては、その興味や関心、能力や学習の深度に応じた学習形態をもっと大胆に実施してもよいかもしれない。
(2) 美術科教育法における効果的な教授法の在り方
(a) 直観教授法とウィネトカ・プランから得られたもの
私はこれまで、美術科教育法を進めるにあたって、それまで学んできたことを自分の生きる環境に照らして理解し、自分の生き方を見出しながら教え方に反映できるような内容にしたいと考えてきたが、ヘルバルトが十分な知識を有さない教育者による教育から起こる事態を危惧しているように、美術教員が美術に対する十分な知識や理念のないまま、ともすると安易に「楽しい」「面白い」授業を目指し、児童生徒と友達関係を築くことで達成しようとする状況は避けたいと考えたのである。
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