PDF版→ 対話による美術鑑賞の可能性 ー「旅するムサビ」との共同授業を通して ー
対話による美術鑑賞の可能性
ー「旅するムサビ」との共同授業を通して ー
中 川 賀 照
Nakagawa Yoshiteru
要 旨
数年前から、「対話による美術鑑賞」が全国的に注目を集めている。これまで行われてきた鑑賞授業とは何がどう違うのか。実践してみると、あまりに当たり前のことだったと気づかされる。今回、「旅するムサビ」として平成20年から全国的な規模でこの鑑賞方法を進めてきた武蔵野美術大学とコラボする機会に恵まれた。教職実践演習の中で取り組んだこれらの内容を報告しながら、この鑑賞方法の今後の可能性について考察していきたい。
キーワード:対話による美術鑑賞、「旅するムサビ」との共同授業、教職実践演習
1 はじめに
数年前、高校美術教員としての31年間の実践を1年かけてまとめ、私設サイト「ガショウさんの美術教育」https://gasho.jpに発信した。美術の先生方への情報提供と、美術教員を目指す学生へのメッセージを込めている。インターネットは、画像や映像などの表示が容易に行えるため美術関係の提示に適した媒体である。本学に着任した平成24年度からは、担当している中学校美術教員養成についての講義内容や研究紀要なども掲載するようにしている。
サイトには、現在も毎日10人ほどのアクセスがあり、公開したことによって嬉しいことに新しい広がりが起こっている。例えば、北海道の公立中学校教諭 山崎正明氏の「美術と自然と教育と」http: //yumemasa.exblog.jpに紹介していただいたことがきっかけとなり、帝京科学大学教授 上野行一氏が中心になって進めておられる「美術による学び研究会」http://artmanabi.main.jp/に参加することができた。この会では、メーリングリストで互いの考えを交流できるフォーラム的なブログも運営されており、全国を拠点として定期的に開催される教育実践発表の場と議論を交わす発言の場となっている。これまでの、研究発表大会に見られる形式的なスタイルではなく、自主的に結成された運営スタッフにより、それぞれ開催地域で独自の工夫を凝らした独創的な運営が行われている。私も、滋賀 県、東京、大阪、沖縄で行われた大会に参加しながら、毎回新しい刺激を受けてきた。
今回の研究テーマである「対話による鑑賞」は、文科省の研究助成を受け7年間研究されたまとめとして滋賀県で行われた「鑑賞フォーラム」で知ったことが始まりである。鑑賞の仕方について、その考え方と発想の転換に驚くとともに、既成概念に囚われていた自分に気がついた。若い頃、私はあ まり美術館に行くことを好まなかった。作品にまつわる様々な情報を、正しく知らなければ良い鑑賞ができないものと思い込んでいたのだろう。20年前に、新しい鑑賞方法を模索する中で思いついたのが、映像メディア機器を活用した「名画に飛び込む」という参加体験型の鑑賞方法であった。メディアにも取り上げられ一定の成果があったが、この方法においても自由な鑑賞者としての視点に至ることはできていなかった。
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