奈良県においても、20年前に「アートグランプリ」が高等学校美術研究会によって立ち上げられたが、このような他府県との連携も必要であったと感じさせられた。滋賀県、明石市、 福井県などから同じような美術部員間での交流に関する報告があったが、特に「ふくい中学生」県 内中学校美術部合同展の「アートリンピック展」では、運動部の最終目標がオリンピックならば、 アートにもそれがあってもいいじゃないかという発想から立ち上がったと言うから面白い。
フォーラム2「美術館から生まれる輪」では、滋賀近代美術館の教育普及活動について報告があり、学校貸出用鑑賞教材「アートゲーム・ボックス」が紹介された。このボックスには、マッチン グゲーム、ジェスチャーゲーム、キーワードゲーム、お話作りゲーム、かるたゲーム、展覧会作り ゲームの6つのゲームの要素を取り入れた美術鑑賞教材があり、無料で4週間借りることができる。 それぞれの使い方もビデオで詳細に解説されており、学芸員主任 平田氏からは、この取組の経緯 や「コミュニヶーション活性化のツール」と「言語を介した鑑賞活動」についての問題点や効果などの興味深い報告を聞くことができた。
フォーラム3「ひとつの授業から生まれる輪」では、滋賀県の美術教育研究会の取組が紹介された。研究会研究部長 堤氏によると、美術の指導方法や目標の設定などについて、会員が何度も検 討を重ねて一覧表にまとめたことや、研究授業ではそれに沿った研究協議が重ねられていることなどが熱く語られた。ともすると、形骸化しがちな定期的に行われる研究会の研究授業の在り方を考えさせられる貴重な報告でもあった。
フォーラム4「子どもの絵から見つかる輪」では、前文部科学省教科調査官で聖徳学園大学教授の奥村高明氏が、たくさんの児童生徒の絵をスライドで映しながら、それぞれの絵の見方について 解説され、パネラーたちがそれについて討議するという具体的で実践的な内容であった。特に、奥村氏の「児童の絵をなぞりながら見ていくと、多くのことが分かってくる」という指導方法は、大変参考になった。
発起人である上野行一氏は、会の設立の主旨を次のように述べている。
近年、アメリカやイギリスの教育界ではeducationという言葉が影を潜め、learningという言葉が多用されてきています。
これは学校教育の場に限ったことではなく、美術館など社会教育の場でも同様の現象だといわれています。同様にわが国でも、「学びの○○○」や「○○○な学び」のように、学び(learning)を視点とした教育論や授業改革が広まってきています。
教育(education)という言葉にまとわりついた「教師→学習者」という一方通行的な、知識伝授のイメージを払拭し、教育を学習者の視点から捉え直し再構築するという意味で、学び(learning)という言葉が流通しているのでしょう。
学習者間の相互作用や共同性、体験や身体性からの育ち、一人ひとりの学びかたや個々に達成されたことなどを重視する学びという視点は、美術の教育においてこそ必要不可欠であると考えます。
たとえば、相互性や共同性の具体的な表れである対話やしぐさに着目した授業分析、個々と集団における意味生成を充実させる鑑賞や表現のあり方、一人ひとりの育ちや変容の具体的な探究などが、学びという視点からの研究の焦点といえるでしょう。
1953年に翻訳刊行されたハーバート・リードの『美術(芸術)による教育』(“EDUCATION THROUGH ART”)は一つの時代を画しました。それから55年間、わが国の美術教育界ではその時の世相や社会の動向に敏感に応じながら様々な研究がなされてきました。
それらに敬意を払いつつ、いま私たちはこの名著になぞらえ、「美術による学び」(LEARNING THROUGH ART)について研究することを提唱します。
2008年2月23日 上野行一
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