一人目の秋田県立高等学校教諭 黒木健氏からは、平成18年度までさかのぼり、教育行政や教育現場という視点からこの課題に迫り、これまで実践されてきた論理的でバイタリティ溢れる実践報告であった。私も、同じ高等学校の美術教員ということもあり、この会を通じて親しく交流を深めることになった。
二人目の山崎正明氏は、北海道の中学校の先生であるが、学校での美術教育の重要性について自身のブログ「美術と自然と教育と」http://yumemasa.exblog.jpを通じて、熱く発信してこられた。学び研の事務局やメーリングリストの責任者でもあり、全国の美術関係者から親しまれ頼りにされている存在である。私も、Webページ「ガショウさんの美術教育」https://gasho.jpを立ち上げたとき、真っ先に関心を寄せていただき激励していただいた記憶がある。氏のブログからは、日々行われている授業実践の視点から有意義な報告がたくさんあり、それらを今後も引き続き学校で実践していけるように、前回の学習指導要領の改訂の際には中央教育審議官の委員たちに、美術の様々な実践についてまとめその必要性について訴えられたという。また、次回の改訂の日程とそれに向けた取組として、私も後に参加することになった「中学校美術Q&A」の立ち上げについて、参席者に協力が求められた。
三人目の沖縄の宮島さおり氏からは、NPO活動についての報告があった。沖縄では、現中学校教頭前田比呂也氏が、教育委員会指導主事の時に精力的に推進された鑑賞教育がベースとなり、2009年に「NPO法人アートリンク」が創設した。氏は、現在もアドバイザーとしてバックアップされている。これまで120回を超える学校現場での鑑賞授業をまとめた冊子「対話をつなぐ美術鑑賞(育まれる教師と子どもの絆)」(右表紙)は、学校と児童生徒と教員などのネットワークに主眼をおいた充実した実践報告集である。特に、地元の複数の作家に関わってもらい、沖縄が抱えている基地問題などに正面から向き合った実践内容は是非広く全国に紹介したいものである。
四人目のDIC川村記念美術館の林氏からは、「美術教育サポート」の活動報告があった。これは、美術館での事前打ち合わせの後、教室で作品画像による鑑賞を行ってから美術館で本物の作品を鑑賞し、教室に帰って生徒たちに意見交換や感想を聞き合う活動のサポートを美術館が積極的に進めるというもので、美術館への無料バスの送迎も1999年から行われているという。この活動は、学校、美術館それぞれのポジションでなければできないことがあるということ、また毎回作品の前でドラマが生まれるということなどが印象に残った。
五人目は、文化庁の真住氏が「企画展の視点から」と題しての報告であった。島根県立石見美術館の「Mite!ね。しまね。」では、コレクション90点の名品を中心に、日本に対話による鑑賞方法をもたらしたアメリア・アレナスによるスペシャル・レクチャーやトーク・セッションを企画したこと、東北大震災の災害支援活動として芸術に親しむ「EASアートキャラバン」で、対話による美術鑑賞を企画していることなどが話された。
最後に、「テレビメデイアの視点から」では、NHKエディケーショナルの上田氏から、ミィケランジェロの「最後の晩餐」が復元されたことを記念して放映されたNHKの特集で、アメリア・アレナス に来日してもらい、日本の子どもたちと対話による鑑賞を実演してもらい報道した番組の反応が大変大きかったこと、「NHK高校講座」やキッズの番組で美術に関する鑑賞などを取り上げていきたいという主旨の報告があり、この数ヶ月後、「針金で作ろう」という子ども向け番組で放映された。
以上、対話による美術鑑賞の現状について、全国各地の様子を概観することができた有意義な会となった。
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