(c) ガニエの学習指導理論より
鈴木克明氏は、学習効果の向上につながり容易に適用できるモデルとしてガニエの学習指導理論を取り上げているが、美術教育において有効なメディアとは何だろうか?これまでは、実物、図版、スライド、解説、手本、ビデオなどが用いられ、それぞれの目的や場面に応じて使い分けられてきた。基本的な考え方は大きくは変わらないと思うが、私は美術教育においては実物や実演が最も効果的なメディアだと考えている。実際の物に触れ、実際のことを見ること、これに勝る方法は今のところ考えられない。情報機器の普及やネット環境の整備などによって、いつでも何処でも誰でもが自分の求める情報を手に入れる環境が手に入ろうとしている。どれだけの信頼性があるかは、各自の判断に委ねられているが、情報の統制や偏りを防ぐにはそのことも必要かもしれない。所謂情報活用能力をフルに活用しなければならない時代だともいえる。情報メディアの活用という意味では、東北大学の電気通信研究所で研究されている美術鑑賞教材「D-FLIP-Paintings」が新しい一つのアプローチだといえる。教材と鑑賞者がインタラクティブな関係で鑑賞を進めることができる点で、これまでにない学習形態の可能性を示唆してくれている。
4 おわりに
教授法の改善を目的に、これまで研究されてきた教育分野内外からの研究や考え方を探ってきた。カリキュラムの構成や授業計画、指導の手立てなどでは大いに参考になったが、これらの研究の中からはどうしても探り出せなかったことがあった。それは、学習者や指導者自身の考え方や傾向(今後はタイプという)の把握であり、それぞれのタイプや個に応じた教授法についての研究である。
美術教育では、互いの感性がぶつかり合う場面が多く見られる。私も40年の教員生活の中で数多くの学習者とのトラブルがあった。最初は指導力不足によるものと考え、その向上に努めることによってある程度の成果も見られたが、それだけでは解決できないものがあった。相手によっては、その考え方や行動がどうしても理解できないと感じてしまうのである。最近では、学習障害や低学力などへの理解や手立てなども研究されるようになってきたが、障害の有無に関わりなく誰もが持っている人間の性質的なものがあるのではないかと考えるようになったのである。
以上のことから、次回は既にコーチングやカウンセラー等で導入されているというエニアグラムや、造形への関心や思考などについて調査・分析し、それらを取り入れた教授法について考察したい。
参考・引用文献
(1)(2)ジョン・レナー、ウィリアムス・ラーン『理科教授の本質と現代化』黎明書房、1972年 79頁-80頁
(3)(4) 田中潤一『キャリア教育における教授法開発の研究』仏教大学教育学部学会紀要 第12号、2013年70頁
(5) 『ラベリング理論』ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/wiki/ラベリング理論 2016/8/4
(6) 向後千春『学士課程教育構築の方法論になるか PSI―個別化教授システム インストラクショナル・デザインの原型』 早稲田大学人間科学学術院 2009/04/08
(7) 鈴木克明『放送利用からの授業デザイナー入門 -若い先生へのメッセージ-』財団法人日本放送教育協会 1995
(8) 鈴木克明『教授メディアの選択にかかわる要因』フロリダ州立大学 視聴覚教育研究 16,1-10 1985
(9) 『形式陶冶と実質陶冶』ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/wiki/形式陶冶 2009/10/11
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