観察していると、ファシリテーターの導き方が少しずつみんな違う。最初にじっくり見させてそれぞれの感想を発表させ、それを深めていくという大筋は同じであるが、作品の種類や大きさなども違うので、近くによってじっくり観察してみる、距離を取って全体を眺めてみるなど、また見る時間の取り方も様々であった。自分が最も進めやすい、あるいは生徒の発言を引き出しやすいだろうと思われる方法を各自が工夫している。前回はうまくいったのに、同じ方法では生徒が乗ってこないなど、他のファシリテーターの対処の仕方を横目に見ながら解決の糸口を模索する。これこそが、「旅するムサビ」が学生達を大きく成長させている理由であろう。実践を通じて、よりよい授業を追求する。自分たちが最も自信のもてるジャンルで、作品を前に児童生徒との対話を通じて、自身の制作をも振り返りながら学び取っていく。閉じられた大学という枠の中だけではとてもできない貴重な体験である。
回を追うごとに、ファシリテーターとしての力が身に付いていっていることがよく分かる。特に、ある学生は人前で話すことが苦手だったのだが、生徒たち一人ひとりの表情をよく観察しながら、時にはすぐ近くまで近寄り発言を引き出そうと必死であった。今回の活動が終わった後、この学生がはにかみながら、「教職を取って良かったです」と口にした言葉が今も忘れられない。
1クラスの鑑賞が終わって生徒たちが引き上げた10分間の短い休憩時間の間も、体育館の片隅に毎回全員が集合し、リーダーによってミーティングが行われ、気がついたことをその都度確認し合って共有している。目立たない地道な取組であるが、自分では気づかないこと、全員が知っておかなければならないことなどをしっかり確認し合うことは大切である。
武蔵美の学生の作品の中に、小品ではあるがペンでたくさんの人物をドローイングしたものがあった。生徒達は、その作品の前に群がり、何が描かれているかを知ろうと食い入るように見つめている(右写真)。私もつられて一緒に覗き込んだ。このようにして4限目のクラスも予定通り終わったが、午前中の2クラスは、反応が良かったので学生たちは手応えを感じていた。
右写真の左端に、視察に来られた文部科学省教科調査官 東良氏の姿が見られる。県の教育委員会が主導して実現した今回の取組を、鑑賞教育のスタイルの一つとして全国で進めて行きたいとの考えをもっておられるとのことであり、生徒たちの様子を熱心にビデオに収められていた。また、前指導主事の吉田校長(右写真一番左)の姿も見ることができ、今回の取組への関心の高さがうかがわれる。
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