エ 「ふくい対話による鑑賞研究会」
この美術鑑賞ハンドブックは、当時福井県坂井市丸岡南中学校教諭の牧井正人氏が、福井県立美術館の所蔵作品を鑑賞対象として展開された実践集である。牧井先生は、県教育委員会から「授業名人」に任命され、「美術による学び研究会」で得た対話による鑑賞のスキルを普及するため、「ふくい対話による鑑賞研究会」を立ち上げ、これまでの実践の成果をまとめ、初等中等教育研究会の奨励事業として助成を受けこのハンドブックを作成された。
ガイドブックでは、これまでの鑑賞授業を概観し、深まらなかった原因を多角視点で考察し、それらを克服する有力な手だてとして必要と思われる目的や授業の作り方、グループでの進め方、授業者の心得などについてアドバイスされている。
第三章では、美術館が所蔵している県内の作家6作品を取り上げ、それぞれの鑑賞授業の進め方を具体例を挙げて詳細に解説している。また、対話によって培った力を更に発展させる題材として、「どんな会社の広告なんだろう」などの実践例が3つ紹介されており、充実した内容となっている。また、付録のDVDにはすぐに授業が進められるように、学習指導案や作品画像も収録されており、全国各地での活用が臨まれる貴重なガイドブックである。
オ 武蔵野美術大学の「旅するムサビ」
教職課程履修学生たちが中心となって教育現場に出かけ、児童生徒と関わりながら美術の面白さを実感しようというこの取組は、6年前、東山大和市立第二中学校教諭 未至磨氏が母校である武蔵野美術大学教授 三澤氏に相談されて実現したもので、右上の冊子は2008年から2010年 の実践を、右下の冊子は2010年から2011年の内容を学生たちがまとめたものである。
学生達は、この冊子づくりに随分苦労したようで、編集後記に「仲間とのぶつかりが、私にとって一番大切な時間であったように思います」と、ものづくりの大変さとそれを成し遂げた喜びを綴っている。
この活動は、これから教員になろうとする学生たちにとって、貴重な体験となっている。武蔵野美術大学の長い歴史の積み重ねが、この取組を可能にしたのであろうが、これらの学生たちが教員になり、赴任先で後輩たちを招くという循環が生まれているところが素晴らしい。この企画を決意された武蔵美の先生方には、その発想の柔軟さに敬意を表すとともに私たちも大いに参考にしたいものである。
旅する武蔵美は、昨年度、京都の4つの芸術大学を巻き込んだ。そして今年は奈良県にも足を伸ばしてくれることになっている。長年、奈良の地で細々と美術教育を続けてきた私には大変嬉しい出来事で、県の美術教育の活性化の一助となることを期待している。
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