映像メデイア表現では、次のようなことが課題になっている。
○ コンピュータ操作に気を取られて、発想が広がりにくい。
○ 意欲的に取り組めるテーマを、どう設定するか。
○ マウスで絵を描くことは、大変難しい。
そこで、誰にでも馴染みのある「しりとり」を取り上げることにした。「しりとり」に登場する単語は、語尾と頭語の連続性はあるが、意味に関連性はない。しかし、その二つの単語を絵に置き換えることによって、視覚的な意味が生じ、さらに変化する過程でストーリーが生み出せるのではないかと考えたのである。
題材の目標
美術I
感性を働かせて、感じ取ったことや考えたこと、目的、機能などを基に主題を生成し、映像表現の視覚的要素を生かした表現方法や編集を工夫し表現する能力を育成する。
〔実践例…(2時間)〕「しりとり」と「手描き」の後、スキャナとファイル化を指導者が行う。
(コマ間の表示は全て0.3秒にし、一人当たり15駒程度×40人で約600コマの作品になる。)
美術II
映像表現の視覚的要素などの効果を生かして表したいイメージや伝えたい情報を映像化し、創造的で心豊かな表現の能力を伸ばす。
〔実践例…(6時間)〕手描き後、各自でスキャナし、アニメータソフトを使って表示時間の変化やフェードイン・アウトなどの簡単な効果を加え、全員のファイルを繋ぐ。
美術III
独創的な主題を生成し、豊かな発想を基に構想を錬る能力と表現方法を工夫し、個性を生かして創的な映像メディア表現を追求する能力を伸ばす。
〔実践例…(15時間)〕一人2場面を担当し、手描き後、各自でスキャナする。フォトショップを使って画像の修正等を行い、手描きで追加したりアニメータソフトで効果を加えたりする
題材の評価規準
関心・意欲・態度 | 発想や構想の能力 |
馴染みのあるしりとりの違った楽しみ方に興味をもち、自分の表現に結びつけたいと意欲的になる。 絵を動かすことによって、多様な表現が可能になることを実感することができる。 | 言葉から連想したことやイメージを大切にしながら、その絵の形や特徴に生かすことが できる。 生命や身近な自然での驚きや不思議、生活の中での感動などを思い出しながら、絵の変化を楽しむことができる。 |
創造的な表現の技能 | 鑑賞の能力 |
コンピュータの操作やソフトの機能に慣れるとともに、自分のイメージをわかりやすく人に伝えるように視覚化するなどのビジュアル・コミュニケーション能力を身に付けることができる。 | 作品の鑑賞を通じて、その表現技法やソフトの活用技術を理解するとともに、心や感性を働かせて、よさや美しさ、作品の背景にある人様々な感情や考えなどを感じ取ることができる。 |
主な学習内容と評価
学習内容(時間数) | ポイント |
---|---|
1 導入 (1) ・動く「しりとり」について ・全員で「しりとり」をする 「しりとり」のルールの説明 | ◎全体の流れを説明せずに、いきなり「しりとり」をした方が新鮮な場合もある。 |
2 制作 (13) ⅰ 手描きのアニメにする。 (4) ①単語を、油性ペンなどを使って線描の絵(A6横)にし、白板にマグネットで貼り付ける。 ②前の人の絵をトレースする。 ③トレースした絵と自分の絵の間に約15枚の白紙を挟んで、絵から絵へと線描で変化させる。 | |
ⅱ 原案を発表・鑑賞する。 (1) ・OHCの手動アニメ装置に、一枚ずつ絵をセットしながら提示し発表する。 ・作品を鑑賞して、感想やコメントを書く。 | |
ⅲ マルチメディア機器を用いて、アニメを編集する。 (8) ①原画をスキャナで取り込み、自分のクラス・番号フォルダに入れる。 ②ホームページビルダーのウェブアニメータで画像を取り込み、1本のGIFアニメに編集する。 ③ウェブアニメータの機能を使い、コマの表示時間や場面変化などの効果を加える。 ④試作品ができたら中間発表して、みんなの意見を聞く。 ⑤みんなの意見を参考にして、自分の満足いく所まで作り上げ、1本のファイルに繋ぐ。 | ◎途中で何度か互いの作品を鑑賞できる機会を設けると、刺激が加わってやる気が出るようである。 |
3 鑑賞 (1) プロジェクター等によって提示しながら、制作の意図や工夫点について発表する。 | ◎発表の中に、次の機会にはどうしたいのかを入れておくようにするとよい。 |
評価の観点 | 評価方法 | 材料・準備物等 |
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○馴染みのあるしりとりの違った楽しみ方に興味をもち、自分の表現に結びつけたいと意欲的になる。 (関心・意欲・態度) | ①説明や参考作品の鑑賞時の姿勢・態度 ②全体「しりとり」への積極的な参加 | ・参考作品 ・提示用具一式 |
○言葉から連想したことやイメージを大切にし、その絵の形や特徴に生かすことができる。 (発想や構想の能力) ○絵を動かすことによって、多様な表現が可能になることを実感することができる。 (関心・意欲・態度) | ③手描き原画の作品 | ・参考作品 ・用紙 (はがき大) 一人当たり15枚程度 ・油性ペン ・マグネット |
○他者の制作意図や作品の効果を参考にし、自分の作品に生かそうとしている。 (鑑賞の能力) | ④感想・コメント用紙への記入状況 ⑤鑑賞態度 ⑥活動状況と作品 | ・OHC ・ノートパソコン ・プロジェクター ・セットケース (自作) |
○生命や身近な自然での驚きや不思議、生活の中での感動などを思い出しながら、絵の変化を楽しむことができる。 (発想や構想の能力) ○視点の位置やコマの表示時間などによって、受ける印象が変わることに気付く。 (創的な表現の技能) | ⑦マルチメディア機器の操作 ⑧ソフトウェア操作の理解 ⑨鑑賞態度 ⑩作品 (観点別評価) ・他者作品の理解の深さとそれらの活用 ・形や時間などの変化による効果の理解 | ・ノートパソコン ・スキャナ ・他者作品の理解の深さとそれらの活用 ・提示用プロジェクター ・ホームページビルダーのウェブアニメータ ・プロジェクター |
○表現技法やソフトの活用技術を理解するとともに、心や感性を働かせてよさや美しさ、作品の背景にある様々な考えなどを感じ取ることができる。 (鑑賞の能力) | ⑪発表状況 ・鑑賞の姿勢 ・態度 ・作品の感想文の提出 | ・ノートパソコン ・プロジェクター |
題材の特徴
ポイント① 全員でしりとり
クラス全員で「しりとり」をすると、大いに盛り上がる。自分の番になるまで、何がくるか分からないという程良い緊張感がある。まず、「しりとり」で出た言葉を黒板に板書していく。そして、言葉と言葉の繋がりを、絵から絵へと変化させていくのである。
ポイント② 目標に応じて弾力的に実施
この題材の特徴は、授業時間の長短によって弾力的に運用できるところにある。10~15枚程度の手描きの部分は、2時間もあればできる。それらを、束ねるだけでも立派な一冊のパラパラアニメが完成する。指導者がスキャナをしてデータ化さえしてやると、コンピュータで簡単な効果を出すことも可能であるし、全員でモニターを使って鑑賞することも可能になる。
ポイント③ 手描きとメディア表現のコラボ
発想が最も必要な原案づくりは、手描きで行うことにした。実際に手を動かすことによって脳への働きかけが強まると考えたからで、さらに二つの絵の間で変化するという限られた条件になることによって、場面の展開の方に集中しやすくなると考えた。
次に、スキャナを使って画像をデータ化するのだが、ここからはコンピュータだからこそできる機能、例えば表示時間の調整、画像の複製やシーンの繰り返しなどの効果を用いることによって、表現の幅が広がっていくと考えている。
絵から絵への変化の仕方を分析し、タイプ別に分けてみた。
「縮小拡大回転」と「スライド」で約半数を占め、「突発的変化」や「不安定形状変化」へと 続き、意外と輪郭だけの変化が少ない。豊かな発想を引き出しているといえるのではないか。
この題材は、日本教育工学振興会JAPET「実践事例アイディア集Vol.19」に掲載される予定。