紙と鉛筆を使ったスケッチでは、立体から平面への変換技術が養われ、粘土によるスケッチでは、立体的な観察力が養われる。
身近に手に入る土粘土を使って、小動物などをスケッチし、手づくりの窯で焼成しよう。
題材の目標
絵画でのスケッチやクロッキーは、物の形や特徴をとらえる練習としては、最も簡便で効果的であろうと思われる。
この題材は、その手法を立体に応用しようというものである。
絵画で立体を表現するときは、普通三次元から二次元への変換として一点透視図法や空気遠近法などの技法が用いられる。
立体では、三次元同士なので簡単そうだが、視点の移動によって基準点が定まりにくくなかなか難しい。形づくりには、さらにその上の四次元(時間軸)的思考で処理する必要がある。
この抵抗感が、難しさとともに追求や意欲の原動力となっていくと考えている。
スケッチ後のほどよい疲れが、充実感となって感じられるとき、創造への一歩が始まる。
題材の評価規準
関心・意欲・態度 | 発想や構想の能力 |
粘土は、太古の昔から人間とともにある身近な素材である。そんな素材に興味をもち、創作意欲を高めることができる。 | 粘土が、自分の表したい形に適した性質になるように、水の割合や扱い方が工夫できる。 |
創造的な表現の技能 | 鑑賞の能力 |
表したい形状に応じて、中を空洞にして軽くしたり、材を入れて補強したりするなどの工夫ができる。 | それぞれの形の把握の仕方や形に適した形状の工夫などを知り、自分の表現に生かそうとしている。 |
主な学習内容と評価
学習内容(時間数) | ポイント | 評価の観点 | 評価方法 | 材料・準備物 |
---|---|---|---|---|
1 導入(2) ・テラコッタ粘土について *アドバイス ①参照 ・粘土でのスケッチについて *アドバイス ②参照 | ◎テラコッタ粘土には、空気や水分排出のためのシャモット(高温焼成の多孔質セラミック)や赤色発色のための鉄分が混合されている。 | ○粘土の性質に興味をもち、創作意欲を高めることができる。 (関心・意欲・態度) | ①説明に対する興味関心態度 | ・作品例 |
2 展開(3) 「粘土でスケッチ」 ・人物・動物を粘土でスケッチする。 ・全体から細部へ固まりからひねり出す方法 ・細部から全体へ部品を作って貼り合わせる方法 *アドバイス ③参照 ・厚みを均等にする ・空気穴を作る *アドバイス ④参照 ・保存するものを選んで、他を粘土に戻す。 ・乾燥させる | ◎対象が動物などのように動くものは、完成のイメージを先にもち、それを基に観察の中で形態をはっきりとさせていく方法や、各部分の形を関連付けながら全体へと発展させ、その特徴をとらえていく方法などが考えられる。 ◎モデルと作品を交互に見ることによって集中力が分散して感じるときや、制作の意図をより明確化する場合には、形が目に浮かんでくるまでじっくりと観察するとよい。 ◎手の中におさまる程度の大きさで作るようにすると、接地面が少ない複雑なポーズも、自重でひしゃげる心配が少ない。 ◎厚みの気になる箇所は二つに割って中を空洞にするか、竹串などで目立たないところに穴を開けて空気を逃がす工夫をするとよい。 ◎立ちポーズのときは、竹串や割りばしなどを突き刺して補強し、水分が抜けて粘土の強度が増した頃合いを見計らって抜き取る。焼成すれば丈夫になるので接着剤などで固定する。 | ○土が自分の表したい形に適した性質になるように、水の割合や扱い方が工夫できる。 (発想や構想の能力) ○表したい形状に応じて、中を空洞にして軽くしたり、材を入れて補強したりするなどの工夫ができる。 (創造的な表現の技能) | ②制作態度 ③作品 | ・テラコッタ粘土 ・へら ・どべ ・湿らせたタオル ・「私のスケッチ」プリント |
3 鑑賞・まとめ(1) | ◎それぞれの視点で観察してできた作品を、自分の好きな角度から観察する。 | ○それぞれの形の把握の仕方や形に適した形状の工夫などを知り、自分の表現に生かそうとしている。 (鑑賞の能力) | ④鑑賞姿勢 | ・作品 |
4 発展(課外) ・ 焼成する。 *アドバイス ⑤参照 | ◎手づくりの窯で、焼成して自分の思いと一緒に保存する。作品に合わせて彩色してもよい。 | ・煉瓦、焼成道具一式 |
題材の特徴
ポイント① 粘土の性質を知ろう
粘土は、微細な土と水でできており、水の割合によって性質が大きく変わる。通常「耳たぶ」位の柔らかさが扱いやすいとされているので、実際に試しながら肌でそれらの性質を体感させたい。
ポイント② 保存には、炎の力を借りる
粘土は、水を加えて練り直すことによって、何度でも使えるようになる。気に入った形ができるまで、粘り強く挑戦させたい。気に入ったものができたら、焼成して思い出と一緒に保存しよう。
ポイント③ 四次元で思考する
縦、横、高さの三次元でスケッチするには、さらにその上の四次元(時間)で把握し思考する必要がある。三次元を二次元に変換する絵画とはまた違った思考をする必要があり、それが立体の醍醐味でもある。
ポイント④ 粘土造形の効用
モチーフとしては、人物や動物、空想の生き物などが考えられる。じっくりと対象と向き合いながら、粘土の感触を指や手のひら一杯に味わい、創り出す楽しさや喜びを体験させたいものである。
ドバイス ① 粘土の性質と作り方
土粘土は、私たちの周りに無尽蔵にある土の粒子が細かくなったものである。川や池、湖、海などの底に堆積したものが、地殻変動で隆起し地上で採掘できるものも多い。信楽の土は有名だが、古琵琶湖の堆積物である。採掘場所によって成分も異なるので性質も違ってくる。
身近に粘土質の土があれば水で溶かしてナイロンストッキングで荒い土や不純物を濾し、その上澄み液を捨てる。粘土が残るので、手ごろな堅さに練って使う。
アドバイス ② 立体のスケッチの注意点
視点の移動から起こる新鮮さと複雑さが、飽くなき探求心を芽生えさせる。それが集中力を増加させることになり、量的な形態への追求心へと深化させる。
立体作品は見る方向によって様々に表情が変わる。さらに、光が作用するとその見え方は無限である。それは制作の途中にも言え、モデリングの際は常に近隣との連続性と、反対面の量的なバランスを意識しなければならない。その際、モデルと作品と制作者の視点が同一線上に位置するように注意する。いずれかにずれが生じると、それらを正しい視点の方向と位置関係に修正するときに非常に複雑な思考を要することとなる。
アドバイス ③ ドベの作り方と使い方
土粘土では、粘土同士をくっつける接着剤としてドベを用いる。ドベの作り方は、本体と同じ粘土を水でどろどろに溶いたもので、粘土の接着面を櫛ベラなどで荒してから筆などで塗りつける。
その際、空気が入らないように気をつけ、押しつけるようにして貼り合わせる。はみ出たドロは、水分が抜けて少し堅くなるまで暫く待ってから形を整える。柔らかい内に平してしまうと、乾燥してから窪みになるので注意が必要である。場合によっては、糸状にした粘土を溝にはわせて押し込み、成形してもよい。
粘土が乾燥してから接着しようとしても、ドベの水分が吸収されて本体自身が崩れてしまう危険性がある。
アドバイス ④ 空気穴の開け方
空気や水は、温度が上がると体積が増える。粘土の中にそれらが閉じこめられると、焼成時に膨張した空気や水の圧力がかかり、破裂の原因になる。粘土の厚みが1センチ以上になる場合は、それらが抜ける道を造ってやる必要がある。
作品の裏や目立たないところに、竹串や爪楊枝などで小さな穴を開ける。大きな作品の場合は、シッピキなどで二つに割り均一の厚みになるように、余分な粘土をかき出してからドベで接着して形を元通りに成形し、竹串などで空気穴を開けておくようにする。
アドバイス ⑤ 焼成窯の製作
小さな作品を、安全で手軽に焼成できる手づくり窯を2つ紹介しておく。
一つ目の窯では、燃料にもみ殻を使って1日放置し、約700~800°Cの野焼き風の焼成ができる。
二つ目の窯では、燃料に木炭を使い、掃除機を送風機として用いることで1000°C以上の焼成ができるので、場合に応じて使い分けるとよい。
放牧された牛をみんなでスケッチ | 窯に作品を詰め終わり、蓋をしているところ |
作品のアヒルとモデルのアヒル | 取り出した作品に興味を示す近所の子どもたち |