江戸時代の浮世絵に代表される日本の版画は、世界的にも知名度が高い。晩年、陶芸にも精通した池田満寿夫氏は、若い頃絵画では生計が成り立たないので、版画を始めたと聞いたことがある。世界では、日本人は版画が得意と思われているらしい。
しかし、授業時間の削減のためか、中学校までに版画を経験した生徒は、年々減少している。版画に見られる日本人のデザインセンスを、継承していきたいものである。
題材の目標
コラグラフ(学習プリント参照)は、素材のもつ物理的な力が表現される版画技法である。偶然性を楽しみながら、その偶然をいかに生かすかがポイントであり、描写力に自信のない生徒もアイディア次第で質の高い作品を追求することができる。
この題材では、素材のもつ材質感からイメージを膨らませ、形や色の組み合わせやインクの混色、刷り順を変えることなどによって刷り上がりの効果を楽しめるようにしたいと考えている。
題材の評価規準
関心・意欲・態度 | 発想や構想の能力 |
版画の多様な表現に関心をもつとともに、形や色が反転したり、同じ作品が複数できるという版画の面白さを味わおうとしている。 | 作品の中の登場人物と入れ替わることによって、作品の時代背景や作者の心情・意図、表現の工夫などに気づくことができる。 |
創造的な表現の技能 | 鑑賞の能力 |
版画の基本的な種類や特徴を理解するとともに、コラグラフ独自の技法を習得することで、表現を広げようとしている。 | 制作過程を振り返り、自分の表現方法を見つめ直したり、展示作品を鑑賞したりして、次の制作に生かそうとしている。 |
主な学習内容と評価
学習内容(時間数) | ポイント | 評価の観点 | 評価方法 | 材料・準備物など |
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1 導入(1) ・版画の種類(木版、エッチング、紙版画等)や特徴について学習する。 ・コラグラフの特徴を知る。 ・制作手順を理解する。 | ◎「コラグラフ」は、「コラージュ」と「グラフィック」の合成語である。紙や布などを貼り付けて作る版画は、紙版画の発展したものといえる。プレス機でインクを刷り取るので、細かいディテールまで表現することができる。 | ○版画の一般的な知識を理解しようとしている。また、コラグラフ技法の特徴を知り、版づくりに生かそうとしている。 (関心・意欲・態度) | ①説明時の姿勢・態度 ②参考作品の鑑賞態度 | ・参考作品 ・教科書 |
2 アイディアスケッチ(2) ・「春夏秋冬、喜怒哀楽」から好きな単語を組み合わせ、自分のテーマを決める。 ・テーマから連想する言葉を書き、それに合った素材を探す。 | ◎イメージが広がらない場合は、言葉から連想する方法があるが、貼り付けるものの材質や形から想起する方法も有効である。 ◎貼るものに、使っていたものや思い出のものなどを用いると、感情移入しやすくなり効果的である。 | ○テーマから思い浮かんだ単語や言葉イメージから、イメージを広げようとしている。 (発想や構想の能力) | ③学習プリントへの記入内容 | ・学習プリント *学習プリント 参照 |
3 制作(8) ①スケッチブックの画用紙を半分(A4)に切り、2枚の台紙を作る。 ②各自で用意した素材を貼り付け、版を2版作る。 ③刷る数時間前に刷紙を湿らせておく。 (刷毛で刷紙の両面に水を付け、新聞紙に挟んでビニール袋に入れて保存しておく。) ④湿らせた版画用高級紙に、プレス機で版の数だけ刷り重ねていく。 ⑤エディションナンバーとサインを入れ、よい作品を一点提出する。 ⑥作品をラミネート加工し、展示する。 | ◎色の組み合わせをうまく工夫すると、3版で全色を表現することが理論上可能である。また刷る順番によっても発色が異なる。 ◎専門紙の「アルデバラン」は、厚手で物の凹凸も写し取ることができ豊かな表情が出せる。厚くなりすぎると破れることもある。 ◎エディションナンバーやサインは格好良く入れるようにしたい。4Bの鉛筆で入れる慣習があるので、紹介しておきたい。 ◎約3枚刷り、その中から一枚を提出するようにした。 | ○多色刷りの効果を考え、自分のイメージに合った色を工夫したり、実際に刷ってみてながら色や形の効果を取り入れようとしている。 (創造的な表現の技能) ○他の作者の制作意図と作品の効果を参考にし、自分の作品に生かそうとしている。 (関心・意欲・態度) ○素材の特長を生かし、構成を楽しもうとしている。 (発想や構想の能力) | ④作品(観点別) ・テーマからの受け止め方 ・構図や大きさ ・材料の組み合わせ方 ・総合的な表現技能 ・刷り方の工夫 ・提出物の提出状況 | ・厚手の画用紙 ・木工用ボンド ・はさみ ・カッターナイフ ・カッターマット ・貼りたいもの枯葉やレースのカーテンなど ・アルデバラン(刷り紙) ・新聞紙 ・パット ・水性版画インク(6色) ・プレス機 ・4B鉛筆 ・ラミネート |
4 鑑賞(1) ・クリアーファイルにある全員の作品を鑑賞する。 ・原版と提出までの試行作品により、それぞれの工夫点を見つけ、感想文やコメントを書く。 | ◎ラミネート加工しておくと、特別な額も必要なく汚れないので展示しやすい。A3までの 平面作品は、ほとんどこの方法で保存し、展示するようにしている。 | ○ 制作過程を振り返り、自分の表現方法を見つめ直したり、展示作品を鑑賞したりして、次の制作に生かそうとしている。 (鑑賞の能力) | ⑤作品の感想文 ・作品の感想文の提出 ・資料等の収集状況 ・発表場面での発表状況 ・鑑賞の姿勢 | ・感想カード |
学習プリント
本格的に、エディションナンバーを入れる
エディションナンバー、題名、サインを入れる
作品展示風景
版画専門紙を使って
版画の刷り紙によって、インクの吸い込みやのりが大きく違う。出来映えに最も影響するので、ここでは専門紙のアルデバランを使った。
額に入れて飾れるように、エディションナンバーや題名、サインなどを本格的に入れて、版画家になった気分を味わえるようにした。
生徒が街角で版画を見かけたとき、体験したことが蘇り、興味関心がもてるようになってくれたらと願う。