(2) 「自他評価システム」の改善と今後の活用
ア 「自他評価システム」の課題
この評価システムを実施して、次のことが分かった。
・ 評価が上がった人は、具体的な目標 (ゴシック体の箇所) を設定していることが多い。
・ この評価方法は、初期の段階に自分のことを知る必要がある場合に特に有効である。
・ 元々高いレベルの人は、数値評価の変化が現れにくい。
・ この評価システムの有効範囲は、同レベルの難易度の課題設定ができる範囲までである。
以上のことから、この評価システムは初期段階では大変有効であるが、レベルが上がるにつれ他の仕組みと複合していく必要があると感じた。例えば、2回生の教職実践演習では、自他評価シートへの記入の際に発表に対するコメントを記入させ、それらをまとめて切り取り、短冊にして評価集計結果と共に返却したが、表4の「分析と今後の課題」のアンダーライン部のように、これらのコメントを見て改善ポイントが明確になった者が多くおり、数値による評価と併せて文章によるコメントやアドバイスが、具体的な目標設定のための有効な手段になっていることが分かる。
コメントやアドバイスの記述及びその返却等の取り組みは、次年度の1回生「美術科教育法」でも是非取り入れたいと考えている。
イ 「自他評価システム」の今後の活用
教員養成課程を担当して最も大きな課題だと思われるのは、本人が教職を自分の意志で選んでいない場合である。遅刻や課題未提出、意欲欠如などの行動が見られるので面談してみると、「親に言われてしかたなく教職を取っている」「教員免許の取得が入学条件だった」などが分かってくる。このような志望動機の場合はやっかいである。自分のことだという自覚がもてないので、話を聞いていても上の空である、他人事のような振る舞いや反応を見せる、打っても響かない、やる気が感じられない等の状況が見られる。教育実習や介護等体験などで、たくさんの人たちに関わっていただくことになるが、大変な迷惑をかけることになる。
次に困るのは、精神的に不安定な場合である。人とのコミュニケーションがうまくいかなかった、不登校を経験したことがあるなどで、本人は自分の体験を生かしたい、またそんな精神状態である生徒のことを自分なら分かってやれると思っている。あるいは、自分がそんな状態の時に、関わってくれた先生に憧れ、自分もそうなりたいと願う場合もある。しかし、自分自身がまだ完全にその状態から脱していないことが多く、大変難しいと思われる。実際に、それらの体験を克服して乗り越え、経験を生かして教員になられた方もおられるが、容易なことではない。
現時点で、能力や適性に多少問題があっても、動機や意欲さえしっかりしておれば、日々の努力によって解決していけると考えているが、それには「どうして先生になりたいのか」や「どういう先生になりたいのか」と、常に自分自身に問いかけながら目指す教師像のイメージをしっかりともてるようにすることが大切である。故に、1回生の前期の「美術科教育法」では、教員に必要な知識の習得と併行して、今回の「自他評価システム」などを用いて、教職への志望動機や適性を定期的にチェックできる仕組みを導入する必要があると考えるが、最も大切なことは、適切なタイミングでこれらを用いることであり、また迅速にフィードバックできるようにすることであろう。「鉄は熱いときに打て」である。
– 10 –