例えばRの場合は、1回目から「毎回やってしまう左上を見る癖をなくすように努力しないといけない、下を向いて話していたので、声が小さくなってしまった。もっと前を向くようにします。」と記述しており、2回目には「もっと内容を忘れないぐらいにしっかり覚えて、話すときもはっきりしゃべるようにします。」、3回目も「次回話すときは、明るくというか笑顔でやってみたい。」と具体的な対処方法をイメージしており、意欲的な改善の姿勢が見られる。
また、1回目から具体的な改善策を挙げているA、B、J、Rは、回を経るごとに評価が上がっていることも見逃せない。
教員への向き不向き、また求められる力の過不足を説明することは難しい。また、それを自分で気づいたり見つけ出したりすることもなかなか容易ではない。しかし、この評価の推移をうまく使うことにより、自分の取り組みをチェックしたり、他人から見た自分を知ったりすことができるのではないかと思われる。指摘されるのでなく、なるべく自分自身で目標を設定できる仕組みが大切なのである。飛躍的に伸びたこれらの学生たちの中には、当初力量不足を心配した者もいた。しかし、自らの課題を知ることによって、そしてそれを真面目に取り組んだことによって、評価の伸びに結びついたのであろう。具体的な目標を設定することの重要性が表れた好例である。
一方、興味深いのは1回目、2回目と全員の評価がダントツに高かったMで、表現力が豊かで発表の力も優れている学生だが、3回目では4位になったことである。他の学生たちが力をつけたことにより全体の評価が上がったとも考えられるが、評価の基準自体も変化したと考えられ、今後も推移に注目していきたいと思っている。
PとUは残念ながら教職を辞退したのだが、具体的な目標の設定ができなかった、あるいは不足している力を補うには大変な努力や時間が必要であると気づいたと考えられる。辞退者は、2回目から3回目の間に4名、3回目の評価後3名、その後2名出たが全員が自主辞退であった。この「自他評価システム」が、教職への適性について考えるよい機会になったのではないかと捉えている。
エ 「教職実践演習」及び「教育実習事前事後指導」への「自他評価システム」の導入
2回生が教育実習後に受講する「教職実践演習」では、2回の集中講義(資料4)とリンクした内容で実施している。1回生は教育実習の事前指導として、2回生にとっては教育実習の事後指導になるが、今年度はそれらを合同で行うことにした。2回生は、互いの教育実習での体験を共有する機会にするとともに、1回生にその苦労や充実感を少しでも伝え、次年度の参考にしてもらおうということである。
a 評価の分析
グラフ2「評価の推移」は、2回生の後期「教職実践演習」で行った他者評価の推移である。
1回目は、1・2回生合同集中講義において教育実習体験の発表者を5,6人に絞るための予選会である。教育実習の体験発表は、様々な苦難を乗り越えたという充実感や、実践でもまれて自信がついたせいか熱のこもった発表が多く、全体の評価平均は4.3と大変高くなった。体験を話したいという思いが強かったのか、大半の学生が10分という予定時間を大幅に超え、中には18分に及ぶ者もいた。
代表者の選考では、「分かりやすく話すことができる」の項目も重視し、A、E、F、H、L、Mの 6名に決定した。
また、発表者へのコメントをコピーして全員分綴じ、集計結果と共に返却した。そのコメントを参考にして2回目の発表に臨んだとの感想を聞くこともでき、目標設定のよい資料になったようである。
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