『青銅時代』は生身の人間から直接に型をとったと疑われて、スキャンダルとなった作品だが、そのことは逆に、この作品がいかに生命感あふれた彫刻であるかという証明に他ならない。モデルの写真との比較(写真右)で明らかなように、この作品は皮下脂肪を少々そぎ落とし、緊張した筋肉表現による誇張以外は、ほとんどモデルに忠実に制作されていることが理解できる。
しかし、重心の位置を比較してみると、正面では、モデルに比べると彫像の方が向かって左にやや傾斜しており、横から見ると前傾し、全体重は両足の親指の付け根にかかっているような筋肉表現であることに気づく。エルセンによればこの傾きは、ロダンは動勢を感じさせたい方向へわずかに像を傾かせ、故意に安定を崩したと解釈されている。そして、その倒れようとする要素に対してバランスを保とうとする力を、両足の大腿部がらつま先にいたるまでの筋肉表現に与えた。
また、立ち足をわずかに曲げることによって、不安定さをさらに強調させている。重心を置く立ち足を少々曲げて立つと、垂直に加わる重力に対して、体重を支えようとする立ち足の垂直方向への力のベクトルが分散され、バランスをとることが困難になる。支脚を曲げたままの体勢を維持しようとすると、大腿部から膝にかけての筋肉は緊張する。かかとにあった重心の位置は、前方へ体重を傾けるごとによって、つま先の方へ移動する。そして、支脚の膝を曲げることによって、それはつま先の方へさらに移動する。
実際に『青銅時代』のポーズをとってみると、このことは容易に理解できるだろう。安定して立つためには、少なくとも片方の足はまっすぐ伸ばす必要がある。安定からは《静》が、不安定からは《動》が生まれることをロダンは知っていた。このバランスを欠いた不安定から生じる動き(作用)とバランスを維持しようとする筋肉の緊張(反作用)とが融合し、今にも動き出そうとする《中間型の動勢》による生命感が生まれているのである。
ウ 大分県立芸術会館の屋外ブロンズ像の修復に参加して
大分市では、大分駅周辺の整備に伴って屋外彫刻の再配置が行われている。大分県立芸術会館は昨年11月に休館となり、館内の屋外ブロンズ像3体も移設されることになっている。今回は、最後のメンテナンスに立ち会うことができたので報告する。
a 大分県立芸術会館での研修の主な日程
・11月21日(金)13時~17時 ブロンズ像の洗浄作業
・11月22日(土)9時~12時 ワックスかけと拭き取り作業等
13時~16時 大分駅周辺の屋外彫刻見学
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