刷毛から垂れないように容器の縁で余分な溶液を拭って塗布するが、無職に近く塗った直ぐから乾いていくので塗布箇所を確認しながら進める必要がある。特に、他の人との境目が難しく、予め大体の担当範囲を決めておくほうがよい。腐食等で荒れた箇所には、染みこむ様子を見ながら少し多めに塗布すると腐食筋が目立ちにくくなると聞いたが、本学の場合は腐食が随分進んでいたので筋跡は強く残ってしまった。
続いて磨きであるが、全体をまんべんなく磨くよりも凸部を重点的に磨くことによって立体感が出る。分担箇所を決めてからメリヤスウエスで軽く磨いていった。大体磨いた時点で、少し離れて眺めて全体の調子を確認する。最後の仕上げは、学生の意見を聞きながら私が調子を整えた。
写真の左側は磨く前、右側は後である。作品の重厚さが増すとともに、各部所の特徴がはっきりとして像全体の形が見やすくなっていることが分かる。
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下の写真は、全ての作業が終わってにこやかな学生達の記念撮影である。予想していたよりも綺麗になったと大満足の様子であった。
4 おわりに
念願のブロンズ像の保存修復作業に関わることができ、数々の収穫があった。実際に名作に触れながらの実践的な授業が展開できたこと、異学年での共同作業が行えたこと、先輩から後輩へと繋いでいける活動であること、在校生はもとより来校者にも素晴らしい作品を良い状態で鑑賞してもらうことができることなどである。また、何よりもの収穫は、この技法が私自身のテラコッタ作品の仕上げの着色や艶出しに大いに役立つことが分かった点で、改めてこの機会に恵まれたことに感謝したい。
この研究が、ブロンズ像設置での同じような悩みを持っておられる各会館等の設置者の皆さんの参考になり、それぞれのブロンズ彫刻が本来の輝きを持って蘇ってくれることを願う。
最後に、今回の研究に際してお世話になりました、元大分県立芸術会館学芸員の池田隆代氏、保存修復専門家の高橋裕二氏、近現代彫刻保存修復家の篠崎未来氏、大分大学准教授の田中修二氏の各氏に感謝を申し上げます。
参考文献
(1) 松尾豊 『野外彫刻展の歴史-全国傾向と富山県の場合-』 大学美術教育学会 1996-07
(2) 江藤望 『彫刻における時間性について1』金沢大学教育学部紀要人文・社会科学編 2004-02-28
(3) 田中修二 『屋外彫刻調査保存研究会の活動について』 第32回文化財の保存及び修復に関する国 際研究集会報告書 2008-12-6
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