美術科教育法における効果的な教授法の考察2
-教育分野以外の教授法から探る-
中 川 賀 照
Nakagawa Yoshiteru
要 旨
美術科教育法の指導において、学生の主体的な学びを導く効果的な教授法の研究が重要だと考え、前回はこれまで研究されてきた教育分野における教授法を再考しながら有効な手法を探った。今回は引き続き、教育分野以外からも参考にしながら主体的な学びに繋がる教授法について考察した。
キーワード:美術科教育法、ICTや科学分野での教授法、主体的な学び
1 はじめに
前回は、本学の教育理念である「やる気」「根気」「本気」のうち、「やる気」は「動機」や「意欲」などとも密接に関わっており、学習を向上させる最も重要な要素であると考え、ペスタロッチの実物教育の直感を大切にする考え方を中心にしながら、ディルタイの対象との触発によって生じる「興味」を伸ばすように働きかけること、またその触発された「興味」を持続するための「根気」を生み出すには、学習者の能力に応じたステップ学習が有効と考えた。また、各自が自分で設定した課題による問題解決学習も、「やる気」と「根気」を誘発する有効な手段だと思われるので、ラインの「導入」「展開」「まとめ」に「深める」を加えたモリソンプランが有効であると考えた。そして、「発表」の前段階である「同化」において確実な知識の習得が必要だということが分かり、合評会では制作過程や意図を発表する行為を通じて学びが組織化し次作の目標や目当てとなることが多く、「発表」と「組織化」をセットにすることができることが分かった。
そこで、今回はITCや科学分野などの教育分野以外の多様な教授の手法から探り、更に効果的な主体的で対話的な深い学びに繋がる教授法について考察していきたい。
2 研究の方法
(1) 教育分野以外の教授法から探る
(2) 美術科教育法における効果的な教授法の在り方
3 研究内容とその考察
(1) 教育分野以外の教授法から探る
(a) ブルーナーの科学教育
1960年代、アメリカに於いて科学教育の議論が盛んに行われた。ブルーナーは、科学には固有の構造があるとし、上級学年で躓かないように、あえて難解なテーマを下級学年で提示し、何度も同じテーマを提示することによって最終的な習得を目指す「繰り返し学習」(スパイラル学習)を提唱している。田中潤一氏は『キャリア教育における教授法開発の研究』の中で、低学年の子どもでも難解な学問を理解する能力を有しているのでためらってはいけないとし、「幼い子どもたちは、事物がいかに組み合わさっているかを探求し、発見したいと熱望しており、そしてそれらをうまく運ぶことを望んでいるのだ。小学校に於いて科学教育は、これら幼い子どもたちの特徴を考察せねばならず、胸躍らせるような科学の領域が自己表現の一つの面となりうるようにせねばならないのである。」※(1)と述べている。美術教育においても、そのものを直ぐに描いたり作ったり理解したりできなくても、質の高い作品と触れる機会をできるだけ多くもつことが大切だということである。
科学教育は、科学技術の急速な進歩に柔軟に対応できる人材の育成が背景にあるが、ブルーナーは「自然を科学的に経験すること、現象を直接に観察し、それを近似的に測定し、それらを単純に調べることを奨励しよう。」※(2)とし、あらかじめ決められた内容を詰め込み、学習者が教えられた内容を確認するだけの伝統的な教授法ではなく、「推理能力」を身に付けることを最重視している。
このことは、現在求められている情報活用能力や問題解決能力の育成にも大切な視点であるが、美術教育においても幼い頃から美術作品に触れ、感じたことを言葉にしたり表現したりする対話的な鑑賞の機会を多くもつこと、また造形活動そのものにおいても空想したり推理したりする楽しみを味わうことが大切であると再確認するところである。
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