最初の一言は、「とにかく気持ちが悪い」であった。その後、様々な意見が出たので一端みんなの意見をまとめることになり、女性が自分の欲望に駆られて行動することへの警鐘ではないかというところへ落ち着いた。もう一枚の『さすらいの楽師』は、右の写真にもあるように、水車小屋が遠くに見える草原で、バイオリンを脇に挟み、傘を杖のようについた青い顔をした人物が、うなだれて立っている姿であった。感想が活発に出て鑑賞が進むにつれ、人物を取り巻くオーラや帽子に見えた触覚のようなものに気づき、死の予感、宇宙人ではなどと、どんどん推理は広がっていった。
二番目は、洋画コースのパノラマのように横に長い100号の風景を描いた油彩である。二つの道が中央からダイナミックに分かれ、その間には厚みのある稲穂の固まりが描かれ、そのあぜ道には鮮やかな赤色の彼岸花が咲いている。
鑑賞者からは、この道の意味についてや、自分の故郷にも似た景色があるなどの感想が出された。芸大生らしく、樹木の描写の違いについての指摘があり、作者から実はこの作品は卒業制作のために現在制作中で、みんなの感想を参考にしてから描き進めようしていることが明かされた。また、この風景は、明日香にある2つの道をベースにして他の風景を組み合わせて描いたという。作者が側にいるので、ファシリテーター自然と作者に聞きたいことをまとめる方法を行うように変化してきた。
三番目は、洋画コースの100号の油彩画で、下町らしい風景が描かれている。これも絵の具が乾いていないところを見ると、制作中のようである。この絵から感じる匂いについて話題が弾んだ。暖かい空気感のする色調から、サンマを焼く匂いや暖かい日差しに干した洗濯物の匂いなどのいい匂いがするという感想が多く出た。
「この道は女子高校生の通学路のような気がする」と言った学生がいたが、この画面の直ぐ右後ろに本当に女子校があるということが分かって驚いた。この学生は、以前にも「このモデルはイケメンのような気がする」と当てたことがあり、絵から情報を感じ取る力、感性の鋭さに驚かされるし、それを共有できる点がこの鑑賞方法の良さでもある。
h 第8回目 12/24月 模擬授業(対話による鑑賞) 5
次の授業のポイントについて解説した後、三組の鑑賞を行った。
3 対話の組織化
・「ひろげる」自由な発想から対話を始める、拡散的な質問をする、意見を全て認める
・「ふかめる」意見の差異を話し合わせる
・「まとめる」意見をまとめる(断片的な意見を関係づける)
4 発言の分類のしかた
・表象された対象 ⇔ 見たこと
・誘引された感情 ⇔ 感じたこと
・表出された世界 ⇔ 考えたこと
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