ウ 教職履修学生のネットワークづくり
全国の鑑賞教育の取組の中で、現在最も活発だと思われる武蔵野美術大学の「旅するムサビ」で、教職を履修する学生達と交流できたことは大変意義深いものであった。また、全国の鑑賞教育の流れを肌で感じることができた。本学は、奈良県の中でも古い文化と素晴らしい自然に恵まれた環境の中にあるが、ともすると閉鎖された状況をも生み出してしまう。日本では、関東地方から発信される情報が芸術や文化の面でも先進的な役割を果たすことが多い。
「旅するムサビ」の素晴らしいところは、全国から集まって来た学生達が、先進的な文化に触れ、それを各自の故郷に持ち帰り、それぞれの環境に応じてアレンジし深め広げていくしくみになっている点で、そして地方に戻った学生達が、勤め先の学校へ後輩達を招き、育ち合うことができる点である。更に、その活動は学内に留まらず全国の学生や教職員とのネットワークに繋がっていく。
本学では、全校生徒の約1割が教員免許状取得を目指し教職課程を履修しているが、実際に教員になる学生は数人である。このような状況から、武蔵美のようにはいかなくても、現在行っている教育実習事前事後指導である集中講義などに校外活動としてうまく組み入れ、今回「旅するムサビ」に参加した学生達や、専攻科に進んだ学生達の協力も得ながら、先輩から後輩が高め合い受け継いでいける仕組みづくりを行えたらと考えている。
4 おわりに
この研究を通じて、「対話による美術鑑賞」の仕方には様々な方法があり、いずれにおいてもどのようにして対話をもつかが重要であることが分かった。そして、「対話」による学習方法や教授方法は、あらゆる教育活動の場においても有効な手段であろうと思われる。
今回の「旅するムサビ」とのコラボでは、武蔵野美術大学生との共同授業、県内小中学校の児童生徒・教員との交流、新しい鑑賞授業の理解など、数え切れないほどの収穫があった。来年度は、奈良県吉野地区での実施も実現しそうである。これらの機会を通じて、本学の学生たちが最も苦手としているコミュニケーション力やプレゼンテーション力の向上を願っている。
本学の教職を履修する学生はもとより、卒業生や将来入学する学生達が共通の目標と目的をもって行動する仕組みづくり、それは作品のようにはっきりとした形にはならないが一つの共同制作といえるのではないだろうか。
参考・引用文献
(1) Mite! ティーチャーズキット1~3 アメリア・アリナス 淡交社 2005
(2) 「もっと、つくりたい」旅するムサビ 2010-2011 武蔵野美術大学 平23
(3) 「今すぐできる鑑賞の授業」美術鑑賞ハンドブック 初等中等教育研究会奨励事業 平23
(4) 「対話をつなぐ美術鑑賞」 (社)沖縄県対米請求権事業協会・助成シリーズNo.46 NPO法人アートリンク 2012
(5) 私の中の自由な美術―鑑賞教育で育む力 上野 行一 光村図書出版 2011
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