(g) モリソンのモリソン・プラン
『モリソン・プラン』の訳者 武籐清氏*(9)は、モリソン(1871-1945)・プランを「計画的にして系統的な学力向上の自由主義教育学」の一つとし、「教師中心に始まって児童中心に終わる。」「極力、知的習得学習を排除し、あくまで学習による人間形成を強調している」と、習得した知識が自らの環境の関連において位置づけられることが重視されていると述べている。
プランは次の5段階で行われ、教員の活動のみならず生徒の活動が重要な契機とされている。
「探求」は、学習者がどれだけ予備知識を有しているかを事前にチェックする段階である。
「提示」は、教員が生徒に学習内容を教授する段階である。生徒が自ら考えられるように、大まかな枠組みを伝達する。教員には生徒一人ひとりの状況を把握する能力が要求される。田中潤一氏は、この段階を「知的枠組みの形成」*(10)と捉えている。その際、教員は生徒全員を引っ張っていけるほど教材に精通している必要がある。
「同化」は、生徒が教員から学んだことを、自分で学習し直す段階で、繰り返し学習する点と学習者の意志を陶冶している点が重視されている。人間形成を図ることが目的であるので、ここでは教員の高い力量が必要となる。『新しい教材や原理原則を十分熟考することにより、学習者の世界観の中に位置づけられ、より有能なそしてよく修正された個々人となっていく』モリソン・プランでは、教員の活動のみならず生徒の活動が重要な契機とされている。
「組織化」は、学んだことを自らの中で整理できている段階で、同化の総仕上げであるが、モリソンは「組織化」と「発表」をセットとして捉えており、「組織化」は、学習過程の一部分であり、中心的理解に焦点を絞るための段階であって、学んだ内容のエッセンスを理解しているか否かを重要としている。また、そのような学習になるような教員の適切な導きが必要であるとする。『個々の生徒がいくつかの違った線で論議をし、独自性をもつことこそ、抑制よりも奨励されることである。』*(9)としているが、この組織化の段階をいかに充実させるかが、美術教育においても重要であると考えられる。「発表」は、学んで理解したことを他の生徒の前で発表する段階であるが、目的は学力の確認ではなく単元のポイントを自分でまとめ他の生徒にうまく説明することで、「弁論の訓練」としている。また、確実な知識の習得は「同化」の段階でなされるべきだとし、「同化」では知識習得を、「発表」ではプレゼンテーション能力を育てるとしている。
このモリソン・プランは、美術科教育法において大変有効な教授法だと思われる。私はこれまで、話す力や自分の考えをまとめる力などを身に付けるため「発表」の場面を多く取り入れてきたが、その前段階である「同化」において確実な知識の習得が必要だということに改めて気づいた。今後、上滑りな「発表」にならないようにするための方策を講じる必要があると感じた。美術では合評会がよく行われる。自分の作品を通して、制作の過程や意図を言葉に出して発表するのだが、それらの行為を通じて学びが組織化し次作への目標や目当てとなることが多く、「組織化」と「発表」をセットにする考え方であるといえる。
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