(h) ブルームの完全習得学習
熊本大学では、インターネットを使って教授システム学専攻学生への教材を提供している。それによると、完全習得学習(マスタリーラーニング)は、1960年代後半に、ブルーム(1913-1999)や弟子のブロック、キムによってモデル化された教育方法であり、理論的根拠となったキャロル(1916-2003)の学校学習モデルを詳しく紹介している。
キャロルは、学習者一人ひとりの学習ペースは違うので、一斉に進める指導には無理があり、それぞれが完全に学習目標をクリアしてから次に進めるように、個別学習教材を整えてマイペースでできるようにするという考え方であった。
これは、美術教育を進める上で特に重要な考え方であると思われる。一斉授業の形態が多く取られる日本の学校では、上記の観点での指導方法とその時間の確保をどう設定するかが課題であり、個々の教員の裁量にゆだねられるところが大きい。そしてそれが、美術教員への評価に落差が生じる原因にもなって現れているように思うのである。
ブルームらは、それを集団的一斉授業で行うことができるようにモデル化し、達成すべき目標を明確にし、評価とそれに基づく適切な指導を行えば、時間的な差違はあっても、学習者の90~95%は必ず学習内容を習得できるとし、事前に学習者の実態を把握し、それに合わせた学習指導計画を立てるための「診断的評価」、教授後学習者がどの程度理解したかを確認し、指導者が指導方針の軌道修正のための「形成的評価」、学期や単元の最後に行う中間・期末テストなどの「総括的評価」の3つの評価が重要であるとしている。
ブルーム門下の梶田叡一氏は『教育評価』(1983)* (11)の中で、完全習得学習を進めるために必要な情報として、次の事項を挙げている。
○ その単元に於いて、達成されるべき目標群を明らかにすること ○ 全ての子どもたちが、達成すべき最低到達基準(マスタリー基準)を定めること ○ 各目標の既達成、未達成を明らかにし得る形成的テストを作成し、使用すること ○ 未達成の場合、適した教材や治療的指導を形成的テストの結果に応じて与えること |
また、「形成的評価」のための「形成的テスト」実施後の教育活動として、次の4つを挙げた。
1 再学習 同じ課題をもう一度学習させるか、不必要な者は深化学習と組み合わせる。 2 補充学習 個々の学習者による不十分な個所の補充学習、不必要者は1と同じ。 3 学習調整 教授・学習活動の展開のテンポや方向を調整する。 4 学習分岐 個々の適性や前提能力等によりグループ分けし、異なった課題を与える。 |
これらの学習手法の一部は、既に美術科教育法の中で取り入れてきた。相互評価の評価項目の設定、集団の中での他者への評価の差異や自身への評価とのズレなどの確認や振り返り、新たな目標を設定するなどである。私は、これらを更に推し進めるため、相互評価結果を直ぐに次の時間にフィードバックするようにした。これを複数回繰り返すことによって、学習者間で緊張感を持ちながらも互いに評価し評価されることに馴れながら、不足部分は予習や経験の積み重ねによって補われるようになってさらに深く思考できるようになり、学習意欲も向上すると考えた。
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