妻の故郷は富山で、よく車で里帰りをしていた。子どもたちが小学校へ行く頃、長い車の道中で妻がこの「しりとり絵」をやり出した。三人で楽しそうに回し描きをする。ドライブインで休憩のときには、私も加わる。
この遊びは、電車で出かけるときも続いた。小さなクロッキー帳と鉛筆さえあれば、どこでもできる。子どもたちの日常の中に、美術があることの大切さを感じた出来事であった。
題材の目標
「しりとり」は、手軽にできるコミュニケーションゲームである。ルーツとなる中世の「文字鎖」は、長歌の最後の言葉が次の長歌の最初にくるようにしたもので、江戸時代の「ある文の最後の単語を次の文の最初の単語に続ける」から現在の「しりとり」に発展したようである。
日本語には音節の数が少ないため、「駅の名前」「食べ物」などの「制限」を加え、「しりとり」を面白くする工夫がされている。「しりとり」は、言葉の連想ゲームといえ、発想力を広げるには大変効果的な遊びである。
「しりとり絵」は、言葉をさらに絵に置き換えるイメージクロッキーともいえる手法を用い、どこにでもある紙と鉛筆を使って、場所を選ばず、二人からでも楽しみながら画力を鍛えていくことができる。
題材の評価規準
関心・意欲・態度 | 発想や構想の能力 |
コミュニケーションを図りながら発想を広げ、「しりとり絵」を楽しむことができる。 | 言葉から浮かぶイメージを形に表すため、特徴をつかまえて端的に表すなどの工夫ができる。 |
創造的な表現の技能 | 鑑賞の能力 |
輪郭を手掛かりに、線の長短や太い細いの変化を組み合わせ、そのものの特徴を簡潔に表そうとする。 | 形の特徴から絵の意味を読み取り、その良さを知るとともに、自分の表現に生かそうとする。 |
主な学習内容と評価
学習内容 (時間数) | 評価の観点 | 評価方法 |
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1 「しりとり」のルールと歴史 (5分) (※注1) 2 「しりとり絵」のルールの説明 (5分) | ○題材の意図や目的を理解し、積極的に取り組もうとしている。 (関心・意欲・態度) | ①説明時の姿勢・態度 |
○「しりとり絵」のルール ・何の絵を描いたか教えないこと ・1枚の紙に同じ絵が登場しないこと ・絵の横へ、自分の番号を入れること ・2枚以上停滞したら次の人に渡すこと ・最後は「ん」の付く絵で終わること |
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3 「しりとり絵」を始める (40分) (図1・2) ①6~8人のグループに分かれる。 ②二人で1枚の紙を配布し、指示したテーマからスタートする。 ③絵で「しりとり」を続ける。 ④最後は「ん」の付く絵で終わるようにする。 | ○言葉から浮かぶイメージを端的に形に表すことができる。 (発想や構想の能力) ○形の特徴から絵の意味を読み取り、自分の表現に生かそうとする。 (鑑賞の能力) | ②グループでの活動状況 ③制作用紙記載内容 |
注1: 「しりとり」のルール 前の人が言った単語の最後の音を、次の人が言う単語での最初の音に使って続けていくが、最後の音が「ん」になってしまうことばを言ったら負けである。 注2: 「しりとり」の歴史 ルーツは中世の「文字鎖」で、「長歌の最後のことばが次の長歌の最初にくるようにしたもの」で、例えば「源氏文字鎖」のように、源氏物語の各巻のタイトルを「しりとり」の方式でつないで覚えるというものがある。江戸時代には、「ある文の最後の単語を次の文の最初の単語に続ける」というものが原型が流行ったようだ。 「しりとり」を面白くするために、何かの「制限」を加えることがよくされる。 例えば「駅名」では、東京→上野→乃木坂→神楽坂→葛西→飯田橋→信濃町→千歳烏山→幕張→両国→国立→調布→府中→浦和→早稲田→代田橋→ という具合である。 日本語は「音」の数、厳密には「音節」の数が少ない。基本的な「50音」に「濁音」「半濁音」「きゃ」「きゅ」「きょ」を加えても100個ほどなので、「制限」を加えないと無限に続くこになってしまう。 欧米語には、「しりとり」はないようだが、中国語では「接尾令」という名前で「しりとり」と同じルールのゲームがあるようだ。 英語の「word-chain game」は、単語の最後の2~3文字を使って別の単語を完成させというもので、「発音」は問題ではなく、アルファベットを続けていくものである。 |