今までの描画法に行き詰まった生徒には、 この新規の表現方法がそこから抜け出る一助となるであろう。 この題材は、生徒の発想を柔軟に受けとめることによって、 いろんな分野への広がりの可能性があると感じた。例えば、掲示板、モビール、ポス夕一、版画、立体構成、鉄への鋳造置換、共同製作、 ビジュアルデザイン、 シンボルマーク、建築や様々な模型工作等への応用である。
(3) 生涯学習につながる美術教育の在り方
美術の活動はコミュニケーションの一環であり、それは個人的なものだけでなくむしろ社会的な活動であろう。 生涯にわたって美術を愛好する意欲や態度の高揚、 美術の楽しさや喜びの実感を多く味わわせたい。学校教育は教育のゴールや完結点ではなく、生涯にわたる自己学習へのスタートとしての教育ととらえ、 長い生涯に生きて働く創造活動の基礎となる確かな力を身につけ、 自信をもって学習の喜びを実感でき、 自発的継続的な学習意欲をもてることを目指したい。
5 研究結果と考察
これまでの教授主体の指導法から生じたと思われる諸問題の解決の方途として、 支援を中心とした指導法にっいて考察したが、 これを進める中で最も大切なのは具体的な方法の云々よりも、 支援者の精神にあると感じた。このことは特に生涯教育を考えるときにはっきりとしてくる。最近、高齢者の方に創作関係の講座で教える機会があった。年配の方は長い人生経験の中で豊富な体験と知識を持つておられる。こちらが教えているっもりで、逆に教えてもらうことが多々ある。また、受講者同士で互いに得たものを教え合う場面も見かけた。 この時のありようはまさにお互いに支援・援助し合つている姿と言えよう。 学校における教育も同様で教師と生徒とがお互いに学び合うという観点に立つことが肝要であろう。 特に美術教育の指導においてはこのことが軽視されてきたようである。
6 おわりに
子どもの絵が純粋で、 素直で、 生き生きとしたそれらの作品が大人をいたく感動させるのは、 表現技術を上まわる内的感動と、 表現したい内容を持つているからである。 今後は、 強い感動を呼び起こす手だての工夫や、 逆に悔しい思い・悲しい出来事を絵に描いて心を静める働きを持たせることができる方途を研究してみたい。 受験体制の中で、 心理的圧迫や消極的な行動を示す生徒が少なくない現在、 生徒の伸びようとする心と、 教師の育てようとする心が一致することが重要と考える。 生徒の個性を生かし育てる教育は、 教師自身が質的に変わり一人一人の生徒が真に人間として尊重され、 徹底した生徒理解によって教育環境を変革することによって実現すると考える。
授業が終わったとき、①今日は充実してやれたな②自分として満足のいく作品ができた③美術がおもしろくなった、 という実感を持たせることができるよう今後も研究を重ねたい。
参考・引用文献
(1) 河合隼雄 1992 「こころの処方箋」 新潮社
(2) 滝本正男 島崎清海 1994 「美術教育の名言」 黎明書房
(3) 佐藤満 1990 月刊教育美術 9月号 「させられる学習からしたくなる学習への転換」 財団法人教育美術振興会
(4) 遠藤友麗 1993 月刊教育美術11月号「美術の学習指導と評価の転換を」同上
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