一番目は、ティチャーズキット③中学校用の中から、古賀春江の『海』とピエール・ド・シャヴァンヌの『幻想』である。
『海』は、全体にセピア色から昭和初期を感じさせ、アメリカの自由の女神のポーズを取った水着の女性や内部が透けて見える潜水艦と工場の絵からは、急速な科学の進歩、経済成長と人との関わりについて問いかけているように思われる。鑑賞者からは、制作年代や時代背景についての発言が多く出された。
『幻想』は、裸婦の後ろ姿と、その息子と思われる男の子が花を摘んでブーケを編んでいる作品である。後ろで嘶いているのはペガサスであろうか。よく見ると、女性の手からペガサスの首にツタのようなものが伸びペガサスを沈めようとしているようだ。そこに物語を感じ神話の一場面を連想したり、登場人物とペガサスとの関係を黄泉の国と結びつけたりするなど、ストーリーに関する発言が多く見られ、人物が登場することによって物語を思考する傾向が起こることが分かった。
二番目は、洋画コースの作品で風景の油彩画である。夕焼けに染まりかけた空を背景に、逆光で浮かび上がる電信柱が二本揺れるように立っている。鑑賞者からは、描かれた時間帯や描写方法についての感想があり、画面左下に並ぶ明かりのようなオレンジ色に話題が集中した。
興味深かったのは、誰かの「電車の窓かな」という発言がきっかけになり、それに対する様々な意見が出るのはよいのだが、話題がそこから抜け出せなくなったことである。「電車だとすると、構図的に問題がありそうなので、建物ではないか」と私の方から別の観点に誘ったのだが、発言によっては強い影響力があり、その際はファシリテーターの適切な舵取りが必要だと感じたのである。
三番目は、クラフトコースの作品で、銅版のたたき出しに熊のイラストとレタリング風の文字が刻まれている。作者は熊が好きで、これまで何度もそれをモチーフにして制作しているようだ。鑑賞者からは、「かわいい」という言葉が連発され、それがあまりに繰り返されるので、言葉の広がりのなさに物足りなさを感じた。銅版や真鍮板などの素材について、またたたき出しや腐食等の技術、製作行程などへの関心が高く、特に洋画や日本画、デザインの学生からは未体験の造形技法に対する興味が尽きないようであった。
i 第9回目 1/20月 模擬授業(対話による鑑賞) 6
最後の授業のポイントは、「対話の舵取り」である。これは、鑑賞授業だけでなくHRなどでも有効な指導方法であると考えられる。その後、模擬授業最後となる三組の鑑賞を行った。
5 対話の舵取り
・「ならべる」「くらべる」「立場をかえる」「つなぐ」「わける」「ゆさぶり」「もどす」
一番目は、ティチャーズキット①小学校(3・4年)用の中から、グスタフ・クリムトの『オイゲニア・プリマフェージの肖像』と小谷元彦の『ドレイプ』である。
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