『オイゲニア・プリマフェージの肖像』は、クリムトの特徴でもある金色を背景に、中年の女性が装飾的で色彩豊かな服を着て立っている絵である。背景右上の和様のモチーフや、背景の中程から下に床と壁の境界を感じさせる描写などへの発言があった。日本的な匂いも感じるという発言によって、服の中にちりばめられた四角い城と赤い丸が日の丸のように見えてくるから不思議である。他人の発言に影響され、見方に変化が現れていく面白い体験例となった。
『ドレイプ』は、襞の多い大きい赤いスカートのようなものの真ん中に、裸の女性が後ろ向きに入っている写真で、木に赤い漆を塗ったもののようであるが、何ともくどい赤が使われているので、不気味だとか、グロテスクだという感想と、逆にこんな雰囲気の作品が好きだという感想の二つに分かれた。これだけ好き嫌いが分かれる作品も無かったので、人によって美に対する感覚や好みが大きく違うことがあるということに気づかされた作品となった。
二番目は、ティチャーズキット②中学校用の中から、マーク・タンジーの『ド・マンを問いただすデリダ』と戦場写真家ロバート・キャバの『崩れ落ちる兵士』である。
『ド・マンを問いただすデリダ』は、妖気漂う崖の上で、二人の男が両手を取り合って何かをしている。鑑賞者からはダンスをしているようだとか、何かもめ事があったのではないかとストーリーを考える発言が多くあった。よく見ると、崖に多くの文字が書かれているようで、これは小説の一場面ではないかとか、CGかもしれないと連想が広がり、謎が深まった。
『崩れ落ちる兵士』は、高原で一人の男の兵士が打たれたようにライフルを落としそうになってのけぞっている姿の写真である。これは本当に撃たれたのか、観光に来ていて撃たれたまねをしているだけかもしれない、男の首からかかっているポシェットは女性ものだから、写真は奥さんが撮ったのではないかという推理も出た。顔と手のトーンの違いから、顔にストッキングのようなものをかぶっているのではなど、一つの写真でも様々な見方になることが興味深い。
三番目は、日本画コースの植物画である。本学の日本画の指導では、モチーフを何度もデッサンし、その中から形を選び出し、再構成するという手法が中心に取られているようで、作者の色や形のイメージの構成が画風となっている。洋画コースでは、写実的表現が本学の主な指導方法となっているので、この作品に対する発言においても、両コースでの物の捉え方の違いが見られた。描画材の違いだけでなく、モチーフの捉え方や表し方の違いが鑑賞の仕方にも現れるのである。
考えてみれば当然のことだが、自身の体験や経験に基づいて鑑賞が行われている証拠であり、この鑑賞を通じて、日本画と洋画の空間やモチーフ、主題の扱い方の違いに初めて気がついたという学生の発言が印象深かった。
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